厚生労働省では、ロープで労働者の身体を保持してビルの外装清掃やのり面保護工事などを行う、いわゆる「ロープ高所作業」について、労働安全衛生規則及び安全衛生特別教育規程の改正を行いました。
改正労働安全衛生規則は、平成28年1月1日(一部平成28年7月1日)に施行され、改正安全衛生特別教育規程は、平成28年7月1日から施行されています。弊社でも平成28年の月末日までに、「ロープ高所作業」の特別教育を修了しています。
ビルの高所窓ガラス清掃を行っていると、「危険な作業だから資格が必要でしょう?」と聞かれ、「何もないのですよ」と答えると、「何もないんですか?」と驚かれていたので、ブランコ作業の法制化は望ましいものだと考えていました。法制化されたことは大変良かったと思っています。
しかしながら平成28年~30年にかけて窓ガラス清掃中の労災事故が相次いで起こりました。この事故の中にロープ高所作業(所謂ブランコ作業)における事故も一部を占めています。ロープ高所作業が法制化されたにも関わらず、業界で労災事故が継続して起こっていることは、我々にとって大変大きな問題だと思います。
平成28年1月1日から施工されたロープ高所作業における危険防止の為の規定には8種類(その他を含む)あります。
注目すべきは3.と4.です。まず3.から見ていきましょう。
「事業者はロープ高所作業を行うときは、墜落または物体の落下による労働者の危険を防止するため、あらかじめ作業を行う場所について、次の事項を調査し、その結果を記録しておかなければならない。」
これらはそれぞれ以下のような意味合いになります。
つまり「規定」では「調査し記録する」となっていますが、実際にはそれだけでは済まずに様々な改善対応策が必要となります。しかしながら現実としては、デザイン優先または屋上設備優先で作られて出来上がったビルに行って、四苦八苦しながらなるべく安全な作業方法を見つけて清掃作業することになるのが実情です。
従って「法制化」されて「調査と記録」が義務付けられても、それだけではなにも改善されず、調査結果に基づいて堅固な支持物の確認や作業動線の安全確保をビルオーナーや管理会社と進めなくては意味がありません。
つぎに4.の作業計画について考えて見ましょう。
事業者は、ロープ高所作業を行うときは、あらかじめ、前条の規定による調査により知り得たところに適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。
これらはそれぞれ以下のような意味合いになります。
事前調査に基づき作業手順書を作成し、人員配置や役割分担及びスケジュールを作成し伝達する。
作業員の経験や知識を勘案し、地上保安要員を含めた人数を作業手順書に記載する。
屋上などの「支持物の位置」は必ずしもブランコ作業に良い位置にはない。安全で容易な取りt付け元を明確に表示しておく必要がある。
ロープの素材や種類は様々なものがあるが、適切な強度を持ったロープの選定を行う。これは自主的に選定できるので最良のものの選定が可能だ。
一般的には45m~50m程度のものが、大体10階建て前後の建物を想定して使われている。最近は常設ゴンドラのない超高層の建物が多いので、100m以上のロープを使うこともある。
ロープはどんなに強度があっても鋭利な角には弱いので、養生は片手間でなく本格的なものを準備したい。置き型養生はパラペットなどに使い、巻き付け型養生はセットバックなどの角当てに使われる。出来るだけ建物に合わせた専用養生を作成するのが望ましい。
ロープは一箇所で作業するものではなく、次々と移動して行くものであるから安全に移動ができるスペースと落下防止措置が施せるものが必要である。窓ガラス清掃を想定した屋上作りはされてないので、多くは安全確保に大変困難な場所が多い。
ヘルメットの着用や作業範囲の安全確保の為、立ち入り禁止区域の措置を講じる必要がある。
人命尊重を最優先し被災者を救出する、または救急車を手配する。全ての作業は一旦中止する。
さて、我々専門業者が作業計画を作成し社内で活用する一方、ビルオーナーやビル管理会社から提出を求められることがあります。
しかし、この作業計画で安全に作業が遂行できるものかどうか、誰が判断するのでしょうか。適切な作業計画かどうかの判断は、我々専門業者、ビルオーナー(又は管理会社)、及び客観的第三者(建築士又は建築事務所)で判断すべきものではないでしょうか。
作業手順書を作り作業人数を決め人員の配置を行う際には、適正な能力をもった作業員が適正な人数で配置される必要があります。
現実的には様々な競争の中で建物の窓ガラスクリーニングを受注して行くので、価格でなく安全作業の遂行能力を重視して業者選定を行う機会は大変少ないのが実情となっています。
個別の安全対策も重要ですが、当該建物の長期メンテナンス計画に基づき、年間の清掃作業回数を決め、安全作業を遂行しながら一定の美観を保ち建物外装の長寿命化を図ることを目的とした「作業計画」が作られないと目先だけの短期的な計画に終わってしまいます。
弊社は「窓ガラス清掃は外装メンテナンスの一環」として考えています。
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